ロシアによる日本漁船銃撃事件の背景を考える

先ほどある人に「今回のロシアによる日本漁船銃撃はなぜ起こったのか」と聞かれました。今のところその原因を特定する直接の理由は分からないので、その旨を伝える中で、「しかし、今後中国やロシアが経済発展を目指していく時に、食料やエネルギー確保の摩擦、つまり漁場や海底油田・ガス田を巡る摩擦は増えていくだろう。中国やロシアに比べて日本の危機感と緊張感はものすごく低いが」と発言しました。

普遍的に考えても、食料やエネルギーを大きく国外に頼っていることは、国家の安全保障の観点からも非常に不安なことであることは明白です。加えて昨今の異常気象や国際関係の緊張を考えると、これらの問題を重要課題として取り組まなければならいはずなのに、政府や官僚がそれを十分に考えていないのが現状だと考えています。

そんな話をしていたすぐ後で、PCを開いてみると、今回の事件の背景として次のような記事が目に飛び込んできました。やっぱりという感じです。

露、外交摩擦が激増 資源ナショナリズムの台頭背景
 【モスクワ=内藤泰朗】ロシアのプーチン政権が推進する経済拡張政策が、欧米など世界各国との外交上の摩擦を引き起こしている。高騰する石油で自信を深める資源ナショナリズムの台頭が背景にはある。ロシア国境警備艇が16日に北方四島周辺で日本漁船に銃撃、死亡者まで出した事件もその一例だ。経済発展で強気のロシアは、今後とも経済拡張を進めてくるのは確実で、周辺諸国との摩擦も増大するものと予測されている。
 ロシアとの摩擦で注目されるのが、同国の世界貿易機関WTO)への加盟を依然として認めていない米国の動向だ。

 ロシア衛生当局は19日、米国ミシガン州の白鳥に鳥インフルエンザが見つかったとして、同州からの鶏肉の輸入を全面的に禁止。17日には、経済発展貿易省が米国に書簡を送り、10月までにロシアのWTO加盟問題が解決しない場合、両国が昨年6月調印した米国産の鶏肉と牛肉の輸入枠拡大合意を白紙撤回すると一方的に通告した。

 米国側はこれに激しく反応し、「ロシア側が政府間で調印した取り決めを破棄するのなら、WTO交渉は深刻な結果をもたらすことになるだろう」と警告した。

 ロシア側は農産物だけでなく、米ボーイング社製旅客機の購入中止もちらつかせ、両国は「経済戦争」に突入したかにもみえる。核開発を断念しないイランや南米のベネズエラなど反米国家や米国が武器禁輸措置を導入する国々に新型兵器を売却するロシアの姿勢は、米国に対する挑戦と映っている。

 ロシアの経済拡張政策の「最重要商品」であるエネルギーでも、摩擦を広げている。

 ロシアは、ウクライナやバルト諸国などの反ロシア諸国を経由せず、直接天然ガスを大消費地の欧州に供給するために、ロシア北部からバルト海海底を通ってドイツに運ぶ北欧州天然ガスパイプラインの建設を開始、2010年の供給開始を目指す。

 しかし、バルト海に面するバルト諸国に加え、スウェーデンのペーション首相が18日、パイプラインがバルト海の生態系に大きな影響を与えるとして、陸上に計画を変更するようロシアや欧州と協議を開始すると明らかにした。

 ただ、ロシアでは「資源を奪う外国を排除し強国を復活させるべきだ」とする資源ナショナリズムが台頭する。西側外交筋は「プーチン大統領自らがロシア製兵器の優秀さをアピールし拡大に躍起となっており、ロシアの経済拡張政策は最重要外交にもなっている。今後、こうした政策が変更されることは考えられず、ますます摩擦は増え武力紛争に発展するような事態も予測される」と指摘している。

【2006/08/20 東京朝刊から】

(08/20 18:50)
http://www.sankei.co.jp/news/060820/kok050.htmより