「輸出戻し税」を実際の計算から考えてみる その2

前記の通り、国からみたら、もらった分の消費税をそのまま返しているので、この一連の取引には、消費税は存在していなかったのと同じことになっています。後の問題は、国が返還した消費税2万円は、きちんとそれを支払った人に返還されているか、ということになります。払ってもいない人に返還するようなことであれば、実際に払った人が払い損で、受け取った人がもらい得となり、大きな問題です。どうもこの「輸出戻し税」にいちゃもんをつけている人は、「売り先である国外から、消費税を取ってないのに、国からは返還金をもらっている」ということを問題にしているようです。本ブログの過去の記事から転載します。

▼ 輸出メーカーは軒並み恩恵 ▼

 ほとんど知られていないことだが、輸出で利益を上げている大企業は、消費税の還付によってさらに利益を膨らませている。このカラクリは「輸出戻し税」というものだが、まじめに税金を払っている中小・下請けにとっては、いかにも不公平だ。

中小・下請けは税金を払い、輸出大手は払い戻し。これってどう見ても不公平である。
(NikkanGendaiDailymail Business2005.10.27.より一部抜粋)

この手の感情に訴える記事の書き方は、サヨクの典型的なパターンでありよく使う手です。つまりいかにもかわいそうな人が善であり、それを疑ってはならないという弱者権力の構図を利用して、自分たちの敵をたたくということです。過去においては、いわゆる従軍慰安婦問題の時にこの手段が最大限に利用され、多くの日本人が洗脳されてしまいました。「この涙ながらに訴えている韓国のおばあさんを疑ったらセカンドレイプ!」。これで政治家の謝罪を勝ち取ると、とたんに告訴を取り下げるというパターン。さすがに裁判所では事実を確認して審理しますから、涙だけでは勝てません。

さて、話を輸出戻し税に戻します。設定モデルをまず再掲します。

【設定モデル】

材料納入業者A→部品納入業者B→輸出業者Cで考えた場合

  • 材料納入業者Aの販売(→部品納入業者へ)材料20万円 消費税1万円 (計21万円)
  • 部品納入業者Bの販売(→輸出業者へ) 部品40万円 消費税2万円 (計42万円)
  • 輸出業者Cの販売(→海外へ)      製品100万円 消費税0円 (計100万円)
  • 輸出業者Cへの輸出戻し税(国→輸出業者) 2万円

そもそも一般消費税は「仮受け」ということであり、本来取引の際に生じた消費税がそのまま国に納められるべきところを、売り手である事業者が一旦預かっておいて、それを後に国に納めることになっています。

ですから、上記モデルで考えると、

  • Aが受け取って国に納めた仮受け消費税1万円は、Bが払ったものである
  • Bが受け取った仮受け消費税2万円は、Cが払ったものである
  • Bが国に払った消費税は2万円−1万円(仕入れ税額控除)=1万円である

つまり

  • Aは一円も消費税は払っていない
  • BはAに1万円払い、Cから2万円もらい、国に1万円払っている 差し引きゼロつまり実質消費税は一円も払っていないことになる
  • CはBに2万円払い、国から2万円もらう

輸出取引において、輸出戻し税がなければ、輸出業者であるCは消費税の払い損になってしまうので、そうならないようにしているのがこの制度だと思うのですが、この制度が悪いと言っている人の論理が私にはわかりません。

 輸出額トップのトヨタはどれくらいの戻し税があるのか。同社広報部は「税制に沿って処理している。個別の数字は公表していない」というので、関東学院法科大学院教授の湖東京至氏に試算してもらった。

トヨタの年間の課税売り上げは3兆6881億円(総売上高の40%)。『課税売り上げにかかる消費税額』はこれに5%をかけた1844億円。一方、課税売り上げに対応する仕入高は3兆239億円で、これに5%をかけた1512億円が『国内仕入れにかかる消費税額』です。この差額332億円が、トヨタが本来税務署に払うべき消費税分ですが、輸出戻し税が2296億円あるから差し引き1964億円の還付を受ける。支払う消費税を上回る戻し税によって税務署には1円も納付しないですむのです
(NikkanGendaiDailymail Business2005.10.27.より一部抜粋)

戻し税があるといっても、それは元々払ったものを戻してもらっているのですから、最後の文章が間違っているのは明らかでしょう。ただし、この制度を悪用して、輸出業者がもうけようとすることが可能かもしれませんが、それは制度自体の問題ではないということを付け加えておきます。