ヘレン・ミアーズ著「アメリカの鏡・日本」(抄訳版)

抄訳版 アメリカの鏡・日本 (角川oneテーマ21)

抄訳版 アメリカの鏡・日本 (角川oneテーマ21)

人間誰でも、自分を100%肯定し「自分はすべて正しいのだ」と断じることはないと思います。自分が正しいと思えることとそうでないこと、過去においても正しかったことと間違っていたこと、そのバランスの中で正常を保っていくのが普通だと思います。そのバランスが崩れて、自分を肯定する部分が突出していくと、それは独裁者のようなものになってしまうし、自分を否定ばかりすれば、鬱病のような精神異常にもなりかねません。

これは国家についても同じ事が言えると思います。自分の国が悪の国家だと言い続けることは健全なことではありません。また、他国の悪を強調して自国の正当性ばかり主張するのもおかしな事です。

戦後の日本は、特に歴史教育の面で、自虐的であり、バランスを欠いてきたと思います。その偏りを是正するために頑張ってきた知識人の方々がいて、今の日本ではその偏りが是正される方向に進んでいるだろうと私は感じています。私自身は、特に日本の戦争責任を意識してはいなかったと思いますが、時代の中で醸成していた「薄甘いサヨク思想」は持っていたと思います。しかし、小林よしのり氏の「戦争論」や「ゴーマニズム宣言」等をきっかけに、客観的な視点を持てるようになったと考えています。ただし、時代の反動で大きく右に揺れている人たちもいるようです。

アメリカの鏡・日本」(抄訳版)の著者ヘレン・ミアーズ女史は、GHQのメンバーであり、中国・日本(東洋学)の研究家でもあります。この本は1948年(終戦から3年後)にアメリカで出版されたのですが、日本での翻訳はマッカーサーにより禁止され、占領が終わった翌年1953年にようやく翻訳版が出版されましたが、「当時はなにゆえかあまり注目されず」そのまま忘れられたそうです。

その後、伊藤延司氏の訳で1995年に角川書店より出版されたのですが、ずっと品切れ状態が続いていてなかなか入手出来なかったそうです。この度2005年6月角川書店より新装版として再販され、しかも新書版で抄訳版まで同時に発売されました。

私はその抄訳版を手に入れ読み始めたところです。実は、この本の書評を書くに当たって、まだ1/5くらいしか読んでいないのですが、あまりにも内容が衝撃的で、この時点で感想を書かずにはいられなくなったわけです。

実際に事実関係としては、知られていることかもしれませんが、何しろこの本が書かれたのは1948年の時点です。この本は、アメリカの政策を批判するために、日米戦争の真の姿を客観的にとらえています。つまり、「日本はそんなに悪くなかったではないか」という立場で書かれているわけです。しかし、そこに書かれている事実は、日本を擁護するための感情は一切無く(アメリカ人がアメリカのために書いたのであるから)、冷徹な現実でしかありません。

ただ、この本を読んでわかるのは、勝ち目のない戦争に突入したことは事実だとしても、その責任を日本の内部に求めるのは明らかに間違っているということです。明治維新以来、やはり日本は英米の属国であり、大航海時代以降の、白人による世界支配の一環として日本の近代史を見なければ、今後の日本の進路も見えてこないと思います。そういう意味で司馬史観は全く間違っていると言えるでしょう。

こういった事実は、副島隆彦氏をはじめとする他の書物や資料からも、頭ではわかっていたつもりでしたが、この「日本人に一切配慮することのない」論文を読み始めた時点で、私は胸が苦しくなりました。
本当に、あの当時戦地に赴いたり国内を守ったりしていた、我々のおじいちゃんやおばあちゃんたちは、迫り来る不安と恐怖の中で、どんなに大変な思いをしていたのかと思わずにはいられません。

戦後に奇跡的な復興を成し遂げ、日本は経済大国にはなりましたが、バブル崩壊以降、経済・金融・情報戦の中で敗北し続け、財政破綻・教育崩壊と、不安の時代へたたき込まれている現状です。

日本はすばらしい国である。しかし足りないところもいっぱいある。現実を冷静に判断し、未来への希望をつないでいくためにも、本当の世界を知り本当の日本を知ることが重要だと思います。
そのよきテキストとして、この本から学ぶものは大きいといえるでしょう。