腰痛と人類進化

妻が腰を悪くして、家の仕事や子供の世話など大変な状況が続いている。

MRIを撮って患部や原因を特定し、医者の説明も聞いた。

MRI:核磁気共鳴画像法
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
核磁気共鳴画像法 (かくじききょうめいがぞうほう、MRI: Magnetic Resonance Imaging)とは、核磁気共鳴 (NMR) 現象を利用して生体内の内部の情報を画像化する方法である。

MRI画像

頭の頂上から下へ向けて連続撮影し、映像化したもの
原理
原子核を構成する核子(陽子および中性子)はスピンを持っている。水素原子核としてのスピン状態は、ばらばらの場合と、そろっている場合とがあるが、通常は同じエネルギー準位をもっている。これに外部磁場を存在させると、スピン状態のそろい方によってエネルギー準位の値が違うようになる。その結果、原子核はラジオ波(電磁波の一種)を吸収して高いエネルギー状態になり、あるいは低いエネルギー状態になるときラジオ波を放出することができるようになる。

静磁場中でラジオ波をあて、全ての原子核のエネルギー状態をそろえるとスピンの状態もそろえられる。その後放置すると、原子核はラジオ波を出しながら低いエネルギー準位(とスピン状態)に戻ってくる。この現象を緩和と呼ぶ。これらの信号を記録し、コンピュータによって処理する。医療用MRIでは特に、水素原子1Hの信号を見る。これらの信号を距離に比例した勾配をかけた磁場中で取ることにより、1Hの共鳴周波数が距離に比例するようにして、得られた信号の強度を白黒に変換してやる事で生体組織の画像を作り出す。

上記の核磁気共鳴の原理(スピンの条件)を満たす元素であれば、全てMRI画像にすることが可能であり、そのような元素は1H以外にもたくさんある。しかし、それらは1Hと比べれば極微量であり、画像化するには少なすぎる。これに対し、1Hは水を構成する元素であるが、人間の体の2/3は水であることを考慮すると、人間の体は1Hだらけであるといえる。1Hは水以外の人体を構成する物質の中に含まれていることが多い。故に、1Hを画像化することは、人体(の中身)を画像化することに他ならない。

MRIを病院で撮るのに保健負担で8千円ほどかかった。私の「親知らず」摘出手術の時にもお世話になっており、合理的な医療ができるようになったものだと思っている。

MRIはさておき、妻が腰を悪くしたことで周りの人に気遣ってもらう中で情報交換した結果、ヘルニアとかぎっくり腰とか座骨神経痛など、驚くほどの人が「腰」を患っている(経験している)ことが分かった。そして、なぜこのように多くの人が腰を悪くしているのか考えてみた。

医者の注意事項や患った人の経験談を聞いてみるとよく分かる。この手の疾患は多くの場合「重いものを持つ」ということが関係している。また、医者の注意では、重いものを持つ際に「なるべく腰をかがめる姿勢をとらないで、膝を落として足の屈伸の力でものを持つように」ということだった。

先日もテレビで介護の特集をやっていたが、非介護者をベッドから車いすに移動するために介護する場合も、同じように「前屈みにならないで、相手の懐に入って膝を落とし持ち上げると介護者に負担がかからない」と言っていた。

つまり、現代人(現世人類)にとって、この「腰を曲げた格好で重いものを持つ」ということが、体の構造上無理があるという結論になる。そういうことが分からずに、相変わらず人類は腰を曲げて重いものを持つ機会が多くあり、その中で腰を痛める結果になっているということが言えると思う。

今の体型とは違いがあるとして、それでも直立で二足歩行を始めたのが人類の起源としてあるわけだが、それは今からおよそ700万年前のことだ。その後人類は、自由になった両手を武器に、道具を使いながら二足歩行で直立した生物として進化してきた。

しかし、農耕が始まるまで、つまり狩猟採取をしていた段階では、それほど重い「ものを持つ」という機会は少なかったはずである。それは、ジャレド・ダイアモンド氏の著作にもあるが、移動の多い狩猟採取生活では「複雑な道具」を持つことはなかったはずであり、農耕による定住生活で、初めて人類は様々な道具を所有することが可能になったということである。

また、「重いもの」の起源としては、その道具よりも道具に由来する収穫物、つまり穀物などの農産物の方が明らかに量も多く重いものであり、農耕が始まったことにより、人類は「重いもの」を持つ結果になったのである。

現在の日本で考えても、米は30kgの袋に入れる習慣になっている。日本ではほとんど米は1年に1回しか採れない。だからその収穫時には1年分の米を田んぼからそれぞれの場所に運ばなければならない。昔の米俵は倍の60kgだった。

農耕が始まったのはわずか1万年前だ。人類の直立歩行の歴史から見ればつい昨日のことになる。狩猟採取の時代には、1年分のイノシシの肉を短期間にとって運ぶなどということはない。

時間もないので結論を言おう。人類は重いものを持つための体を獲得していない。それどころか、分業や機械化で、日常的に訓練もできていない。このような進化していない状態で、狩猟採取に多くの時間を費やして獲得した直立歩行の体に対し、腰を曲げて重いものを持つことは、構造上からも無理があるということである。それ故現代人の多くの人が腰を悪くしているのだ、という結論に至ったのである。