最近著しい日本人のスキルやサービスの低下を考える

終身雇用制度というのは、特に日本の古い伝統でも何でもないのですが、サラリーマン(会社員・従業員)としての正規の社員で会社・企業に就職すれば、定年までそれほど無理なく家族を養うことのできる時代がありました。以前にもNTTを例に出して、現状を説明しました。
<この20年で社会は会社はどう変わったか>http://d.hatena.ne.jp/sakunou/20051114
<この20年で社会は会社はどう変わったか その2>http://d.hatena.ne.jp/sakunou/20060119

私がNTTを辞めたのは、今考えれば来たるべき不遇の時代−50才定年・給与カットで再雇用−を本能的に予測し、泥船から逃げ出すネズミのごとく去っていったような気もします。

こういう現状を被雇用者の立場から見ても、「大変な時代になったものだ」と思いますが、視点を変えて消費者の立場としてみてもこの「大変な時代」を実感する場面があります。つまり、不安定な雇用状況の中、企業もパートや派遣社員でコスト削減を図り、業務をまかなっているのですが、それがサービスの低下として顕著に表れていると感じることがあまりにも多いということです。

近代資本主義の成立要件の一つとして「契約の考え方の成立」がありますが、それはサービスの提供側と消費側の対等な人格の認識が基本になっています。分かりやすい例で言えば、電車が時刻表通りに発車するとか、納品が期日通りに行われるとかということです。さらに簡単に表現すれば「約束を守る」ということになりますが、そのプロセスにおけるやりとりの中身も重要になります。仮に商品が期日通りに届いたとしても、その契約の流れの中で不測の事態に対する準備ができていなければまともな契約にはなりません。

契約通りに事が運ばなかったときの連絡先、担当者はもちろんのこと、担当者が不在であっても、組織の中で上司や別の社員が対応できるように準備できていなければまともな契約とはいえません。ただし日本人の場合は、明確な契約の概念よりも、周囲を意識する緊張感や相手を怒らせたくないという感情等がうまく機能した結果として、欧米とは違う概念で近代資本主義が成立していました。ある意味それが欧米の契約社会よりもうまく展開した結果、世界第2位の経済大国になったといえます。

しかし、そのような伝統が崩壊しつつある今、業務やサービスの低下が著しいのではないでしょうか。例えば、どこで顧客情報を手に入れたのかは分かりませんが、一方的に送られてくるFAX。勝手に送ってきた上で、「必要なければチェック欄に記入して送り返せ」と書かれています。そのようなFAXを請求もしていないのに、どうしてこちらが通信料を払って連絡しなければならないのか。頻繁にかかってくる勧誘の電話もひどいものです。

また、正規の企業の販売店に注文や問い合わせをしても、納品や回答の期限が明確になっておらず、いつまで待てばいいのか、いつまでに連絡が来るのか、それが全く分からない不誠実な(というか基本ができてない)対応もあります。

先日などは、妻がある金融機関の窓口で預金口座に現金を入金したところ、窓口担当者はその入金額を「出金」の欄に記帳し、入金したのに残高が減っていたということがありました。まさかそんな間違いをするとは妻も思わなかったので、通帳を受け取ってそのまま返ってきたところ、後刻になって「間違いだった」という文書が留守中に配達されていました。そしてその文書には「間違いだったから明日窓口に来て下さい」というひどいものです。

企業や組織の雇用形態が崩れて、業務やサービスの意識がガタガタになっている中、日本人特有の「甘え」だけが残り、さらにひどい状況が進行していると思います。

このような中、ネットや宅配会社の多くは、消費者に甘えて商売をするという概念を捨てて、きっちりと契約に則った事業を展開しています。これらは契約通りのサービスが履行されますし、自らの瑕疵は補償すると謳っています。

日本的な良さも含めて考えれば、「顔見知りでサービスもきっちりとしている」のに越したことはないですが、それができないのであれば、「顔が見えなくてもサービスがきっちりしている」ほうを選択します。

さらに深く考えていくと、「日本人とは何か」「どうしてこういう状況になったのか」ということについて知る必要があります。しかしそれは、ものすごい知識と勉強が必要になってくるので大変なことなので、せめて若い人には、今日私が述べたような経緯と状況を意識した中で、「サービス・契約・日本人的甘え」というものをよく考えて、自らの業務の中に生かしてもらいたいと思います。これから日本や世界は、さらに大変な状況になっていくでしょうが、このような時代だからこそ、逆に業績を伸ばせる仕事のやり方があるはずです。私もそのように考えて頑張りたいと思います。